2015年御翼1月号その4

『生きるのが楽しくなる15の習慣』日野原重明医師

 

今年103歳で現役のクリスチャン医師・日野原先生は、『生きるのが楽しくなる15の習慣』の中で、「人生のビジョンを立てる」大切さを書いておられる。先生は、人生における目標、ビジョンを立てることが大事であるということを、牧師だった父から学んだという。
 父、善輔(ぜんすけ)は23歳のとき、明治33年からアメリカ・ノースカロライナ州のデューク大学に四年間留学した。その広大なキャンパスや、のびのびとした教育に、とても感銘を受けたという。帰国後、広島女学院というミッション・スクールの院長をしているとき、父は六万坪(約19万8000平方メートル)の山地を買った。いつか、デューク大学のような広大で自然あふれるキャンパスにしたいと、将来のビジョンを描いたのだ。教授会や同窓生から大反対されながら、その夢がかなうように、山を買った。結局、父は日野原先生に次の言葉を残した。「重明。私はビジョンを立てたが反対された。しかし、いつの日か、三つめのXであるビクトリー(勝利)があると信じ、一つめのXであるビジョン(将来に対する展望)を描き、二つめのXであるベンチャー(勇気ある行動)を実行した。おまえも3つのXをやってみなさい」と。自分の心のなかにビジョンを描き、それに向かって勇気を持って行動することは、人生の創造につながる。
 ビジョンを持つとは、理想ばかりを語るわけではない。現実問題と、自分の力と、人の助けとなどを考えながら、「これはいけるぞ」と思ったら、あとは、勇気ある行動をするのみだという。日野原先生もアメリカに留学し、帰国後は医学教育や卒業後の医師の教育を刷新することに全力投球した。例えば、かつては成人病と呼ばれていた病気であるが、日野原先生がつくった「習慣病」という名を旧厚生省が認めるのに四半世紀かかった。
 先生の父親の場合、生前には目標達成という第三のXには到達しなかった。大きなビジョンは、つねに時代を先取りしているので、なかなか理解してもらえないものである。それでも勇気ある行動を続けていけば、そのビジョンは次世代にバトンタッチされ、引き継がれていく。戦後半世紀を過ぎて、広島女学院のキャンパスに、父の像と記念館がつくられた。聖路加病院は現在、全室個室の総合病院、聖路加看護大学の新しい建物、近代的な老人ホーム、ホテル、予防医療センター、救命救急センターなどが完成している。これは、創設者のルドルフ・B・トイスラーから数え、四代目の院長・日野原先生の代でビクトリーに到達した壮大なビジョンだった。
 「小さな円を描いて満足するより、大きな円の、その一部分である弧になれ」牧師であった日野原先生の父は、イギリスの宗教詩人、ロバート・ブラウニングの詩の一部をよく教会の説教で引用した。ビジョンを得るのに、神の御心(神と人とを愛すること)を求めることが大切である。何を持つ「having」という願望ではなく、どうありたいか「being」という希望を持とう。私たちはどういう人になりたくて、どういう人生を過ごしたいという希望を持っているだろうか。

鳥は飛び方を変えることはできない。
動物は、這(は)い方、走り方を変えることはできない。
しかし、人間は生き方を変えることができる。
繰り返す毎日の行動を変えることにより、
新しい習慣形式により、
新しい習慣の選択を人間は決意できる。
人間には選択の自由がある。
そして、意志と努力により、
新しい自己を形成することができる。
それは、人間と動物とを根本的に区別するものといえよう。
 習慣には固定のスタイルはありませんから、どうデザインしようと、どう選択しようと、まったく個人の自由というわけです。そして、それは人間にのみ認められた特技なのです。
 こうしたことを忘れずに、習慣と上手につきあい、体と心の可能性を最大限に生かしながら大切に育てることが、与えられた人生を豊かに、そして楽しく生ききる術ではないかと思います。  
日野原重明『生きるのが楽しくなる15の習慣』(講談社)より

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